背景:
京町家は、文字道理、京都を中心に今なお息づく、都市型居住空間であり、
全国にも散在する町家の1つの典型例です。
それは、京都の暮らし、空間、そして職住共存のまちづくりを隙間みさせ、
時代の変化を受けつつ変容しています。
又、下図のように、京町家と京の都の都市計画は密接に関わり、元々の格子上の
区画から道路を挟んで1区画単位を組む構成へと進展し、共存・共守のシステムによる両側町と云うコミュニティーを形成しました。
両側町:道りを挟んだ街区の形成(出典:京都市景観まちづくりセンター)
現存する京町家には、幾つかの典型例がありますが、その中で、通り庭型町家が、最とも我々に馴染み深い型と言われ、大方7パターンの間取りを有する事を、長年町家調査を実施してきた京都市景観・まちづくりセンター(まちセン)が、2019年に発刊した報告書、京町家カルテが解く、京都人が知らない京町家の世界*1で紹介しています。
又、その7パターンの中に於いて、特に、2階建1列3室型と云う、通り庭(上部吹抜け火袋)沿いに3室の部屋が沿い、2階に3室配置する間取りパターンが、全体の約半分を占めています。*2
*1、*2
京都景観まちづくりセンター、大場修編集、2019「京町家カルテ」が解く京都人が知らない京町家の世界
取り組み:
本プロジェクトは、京都日吉町の長屋(1列3室型)と云う典型町家を参考案件として改修するもので、脈々と続く今日町家の特性を再考すると共に、当時のありようでは
不利益若しくは、不便である事柄を、現代的手法で改善する事が目されます。
訴求した事柄:
1)町家の意匠を出来るだけ復元し景観や都市文化を持続させる。
2)改修中で、町家で詳述される、暑くて寒い、暗い、狭い、プライバシーがない等の現代的な課題を近代的手法で解決して、温熱環境が良い、明るい、
コンパクトで広い、適切な防音(遮音・吸音)区画と空間配置でプライバシー確保していると云う、”ない”を”ある”に変える試がなされる。
3)古材や日本伝統家屋そして京都の特有の家具・備品・造作を取り込んだ木造・木質建物を設計する。
4)構造には、在来軸組み工法と伝統的工法を交えて計画する。
外観:
・外装には、なるべく多くの京町家の”形態意匠”を現代的に配置する事で、景観形成を実施し、近接町家と共に景観の形成にも配慮。
・屋根上に配置された天窓や換気塔は、道路からは隠れており、斜線制限内にも十分に収まり内部空間に恒常的な自然採光を送り込み、自然換気(温度差換気)に大いに寄与する。又、全て200mm以上の立ち上がりを有し、特有の漏水を著しく低減しメンテのし易さに寄与し、表玄関には、町家特有の格子扉を配置し、広い間口を覆う。
・犬矢来は、飛び水(雨水)からの防護として出窓を保護する。
・軒先や庇先の瓦には、京町家特有の饅頭瓦を用いて景観に配慮。
・町家北側は、元々の裏庭面積の一部を浴室と洗面所の一部に充てる事で増築された。
又、1階北側のダイニング前に、頑強な和風庇を追加する事で、上記の増築部分の片流れ屋根からの雨水の流入や冬期の北風の煽りを防ぐ。
上記の庇と増築部分の片流れ屋根には、いずれも”ガルバニウム鋼板”を使用して、既存改修部分の”一文字瓦”や”饅頭瓦”と区別して、時代性を持たせた。
又、裏庭の境界壁と外装は、焼板で統一された。
・裏庭庭園には、敷石、小石、芝生、草木、外部照明そして京都の工芸品を配置した。
内観:
・仕上げには、漆喰を用いて、天井には化粧シナ合板を用い、木製で伝統的なものにする一方、各部材には、断熱を施し遮音シートを騒音源に近い部位に設置する事で、内部空間に於けるユーザーの快適性を増加し、シックハウス症候群の発生防ぐ。
・既存の火袋+吹抜けそして新設階段とその上部の吹抜けは、最上部の屋根付け天窓や換気塔と接続する事で、温度差換気や通風(ナイトパージ含む)そして家屋内部への自然採光等を可能とする。
・CH1.4m以下で、直下階の床面積の合計の1/2以下の床面積を有する屋根裏収納室を設置(非居室用途に限定),縦の配管/配線やダクト等は、火袋+吹き抜けや壁に配置し、床下や天井裏、元々の高い階高を有効利用し、横流し設備配管・配線ダクトを配置する。
・浴室は、システムバスを想定。
・屋根断熱、床下防水(防水シートとコンクリート防水)。
・天井裏に設備配管設置。
・窓ガラスは、複層として開口部の断熱性を高める。
・高効率な空調や温水器(エコキュート or エネファーム)をする事で、建築設備のエネルギ―消費を削減する。
・裏庭には、洗濯機から近い物干しを配置。
・便所は、新設階段下の空間に配置。
・内部開口部には、障子、襖、暖簾そして格子のような伝統家屋の特徴を帯びた備品を配置。
構造:
・構造は、伝統軸組み工法踏襲しつつ、耐震・制震・免震等の補強で成立させる。
例)耐震壁や筋交いそして金物使用(耐震)、制震・面震装置を使用。
・木造軸組みは、改修や新築において、極力、古材再利用を行い、繋ぎ・添えを行い、
使用木材資材の炭素固形や吸収は、開発、運用、廃棄でのライフサイクルを通じての二酸化炭素(CO2)の発生を大幅に削減し、脱炭素の貢献。
・通柱や手法梁が、240mmx120mm、その他の躯体が、150mmx120mm, 120mmx120mm, 根太や垂木等は、105mm~40mmの角材を使用。
上記は、実際のプロジェクトでの構造計算により確定される。
・基本的に、使える構造木材(古木) や継木を再利用して、真壁工法により、木材躯体を可視化してメンテを容易にする。
・断熱材、防水、遮音シート は、インフィルとして真壁内(木造躯体に挟む形)に収める。
・基礎部には、足固めを回して各柱を繋いで建物全体の揺れを低減する。
*実際のプロジェクトでは、プロジェクト別での制約条件に基づく構造計画/設計、そして構造計算に準じた構造モデルが提示される。
・町家の特徴である石上の基礎若しくは基礎なしの状況を打破するため、基礎部にはRC補強(玉石補強)を施す。
・参考標準型(根太工法)*業者により様々な工法(例:剛床工法)があるので、実際に採用する工法は、プロジェクト別で変わる。
・屋根上の天窓や換気塔は、ドーマーや越屋根の変形版として、立ち上がりを設けて配置する事で、雨風による劣化に強い構造とし、従来の雨漏れ対策に対応する。
省エネ性
北側新設庇:雨避け、北風避け、新設浴室・洗面室屋根からの雨水避けに寄与。
北側諸室:北側からの恒常的に差し込む間接光による採光あり。
天窓:町家の内部空間の暗さの低減。
漆喰壁:白色系の壁は、天窓からの自然光を拡散して、内部空間を明るくする。
24H第三種換気:便所や台所に配置。
第1種換気:給気口:窓、24H給気口の各諸室への配置。
換気口:屋根部の換気塔、窓、内部間仕切りへの障子等の開口部等。
通風と置換換気:階段エリア&火袋+吹き抜け上に天窓と換気塔を備える事で実現。
南側庇/軒裏を有する屋根&格子:
夏季:直接日射光を遮り日よけとして機能。
冬季:南面開口部から弱い光が、部屋奥まで入る事で自然採光と土壁のThermal mass(熱質量)の増加と断熱による町家の保温に寄与。(格子からの日遮量が如何程は、要確認)
換気塔&ナイトパージ: 夏季に、換気塔は、換気機能だけでなく、夜間の冷気を町家全体に吹き込む事での夜間空冷機能を有する。又、壁式給気口に代わり、夜間給気を部屋全体に送風する事も出来る。
戸建住宅簡易計算シートを用いて、省エネエコ町家の外皮性能を、基本設計時に確認して、設計値0.4は、省エネ基準値以下(0.87)であるだけでなく、ZEH値(0.6)よりも、更に低く、冷房期の平均日射熱取得率(2.0) も同様に、基準値(2.8)より低く、暖房期の平均日射熱取得率(2.1)と省エネ性能(断熱・気密性能)が高い町家が計画された。
総じて、木材や自然素材を多く建材として使用する事で、内部空気品質(IAQ)を高め、健康や免疫力向上、温湿効果、視覚(和み、温かい等)や嗅覚(リラクゼーション、ストレス解消等)のポジティブな効果が実証されつつある。
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